閉会のごあいさつ
この度は多くの方にマツモト建築芸術祭にお越し頂いた事、そしてご協力いただいた事、誠にありがとうございます。
これまで多くの素晴らしい建築物が壊されていくのを目の当たりにしてきました。おそらく所有者お一人お一人にはそうせざるを得ないそれぞれの事情があり、取り壊しとの決断に至ったのでしょうが、「こんなに素晴らしい松本の財産を、なぜ壊すのか」とその度に悔しい思いを味わってきました。
コロナ禍で次の観光を見据え、アートで松本を発信できないかと考えていた頃、今回の総合ディレクターのおおうちおさむと再会しました。彼がアートディレクターとして手掛けた「モダン建築の京都」(京都市京セラ美術館の開館1周年記念事業)のポスターを見て、建築という松本の財産をアートイベントを通じて発信できるのではないかと考えました。そこで観光庁の既存観光拠点の再生高付加価値化事業に応募し、採択されて、そこから約5ヶ月でこの事業を実施することになりました。
地元の建物を愛してやまない建築士の協力を得て、会場候補となる名建築をピックアップし、松本市内の建築物を見て周りました。優に50を超える建築物が候補に上がりましたが、今回は中心市街地に絞って20箇所を会場にすることにしました。「この建物にこのアートを置きたい、その化学変化を見てみたい」という思いで、おおうちおさむが国内外から17名のアーティストを選定しました。いわゆるキュレーターではない人間が、有名無名問わず、また共通項も関連性もない芸術家のラインナップは、これまでの芸術祭の常識を覆すものとなりました。もともと松本は「民藝」の街。有名無名問わず「美しいものが美しい」と感じられる文化が根付いています。
元々観光のオフシーズンである1月〜2月、さらにコロナ禍で会期が全て蔓延防止と重なり、開催まで期間が短く告知期間が少ない中で、来場者数はまったく期待していませんでした。しかし結果は大盛況、地元はもちろんのこと、多くのお客様が首都圏はじめ県外からわざわざお越しいただき予想の3倍を超える入場者数となりました。来場者へのアンケートでは9割の方が次回の芸術祭も来たいと答えてくれています。
何よりうれしかったことは本当に多くのお客様にお越し頂いたこと、そして、200名を超えるボランティアの皆さんが協力してくださったことです。会場の片付けや掃除、物品の買い出しや施工、会期中の会場でのお客様対応など、非常にレベルの高い活動を行ってくれました。この方々がこの芸術祭を支えてくれたと言っても過言ではありません。そして地域の方々も協力してくださり、この無名なイベントに快く会場を提供してくださいました。
ぜひあなただけの素晴らしい名建築を見つけてください。この芸術祭がきっかけとなり、素晴らしい建物が見直され、松本の街の輪郭を彩ることにつながれば幸いです。
そして「住んでよし、訪れてよし」の魅力的な松本になるはずです。
次回のマツモト建築芸術祭にもご期待ください!
マツモト建築芸術祭 実行委員長
齊藤忠政